「アラアラ・・・ジャムさん、そんなにお食べになっては身体に毒ですよ?」
2月14日、その日『トラブルメーカー』のジャムは、しかしおとなしくしていた。
それもそのはず、この日、あるウチを訪ねるとたくさんチョコレートを食べられるからだった。
独身男、駆け込み寺・・・。
ちなみに、『営業職』経験のある作者であるが、
ギョーカイ用語で男性独身者を通称男独(ダンドク)、女性独身者を通称女独(ジョドク)と呼んでいた。
残念ながら『ひとりもの』であるということは、それだけで区別の対象になってしまう世の中である。
『男独』・・・彼らに『2月14日』は常に残酷な存在で、『12月24日』の『終戦』(WAR IS OVER)を迎えるまでの
恋愛皆無的『一年戦争』における開戦記念日といって過言ではない1日であった。
幸せなカップルとの戦いはまさにこの日、毎年始まるのである。
しかし、彼らにも希望はあった!
最後の砦(とりで)とも言うべきそのお宅は、かなりの・・・そう、かなりの『おじさん』達および『こども』達であふれていた。
大城那 美実(おおきな みみ)。
『セントバレンタインデーの聖母マリア』と呼ばれる女性である。
ミミ先生は慈愛・博愛、とにかく広く万民を全て平等に愛する精神に溢れた先生で、しかもかわいい。
かわいいのだが、30代前半の『オトナ』の女性でもあり、落ち着いているというか、かなり穏やかな性格が大人気であった。
ジャムいわく
女子高生だ、女子大生だ、20代だ・・・
とか言ってるうちは男もまだまだコドモ、恋愛も児戯(じぎ)よ。
女の魅力は30を過ぎねばわからん、わからんのだよ。
しかも未婚の女教師!
これはもう、無形文化財にして国の宝じゃ。
・・・とのことで、事実、ちょっとませた若い者をのぞき、おじさんからジジイに至るまで熱中している始末。
子供にも人気のある優しい先生なので、もし『オムス総帥』を除いて考えれば村での人気はトップクラスだ!
バタ子さんと人気を二分する、いわゆる『おとなのおんな』・・・『おね〜さん』よりもう一歩、高みにのぼった存在であった。
ミミは、毎年2月14日には『チョコレート菓子パーティ』を自宅で開催する。
これは、本当はクラスの子供たちを対象にしたものであったが、しかし、いつのまにか大人も来るようになってしまい、
一種
「お祭り」のようになってしまったのであった。
もちろん、子供たちは『わいわい』できるので大喜びなのであるが、
このパーティのにぎやかさにまぎれて、個人的にこっそりと女の子がチョコを渡せるという、さりげない、
女の子のための『勇気を後押し』してくれるものでもあり、
なおかつ、男子はみんな先生からチョコをもらえるので不幸な結果に終わる者はいない・・・という、全員が満足する祝宴であった。
「ジャムさん・・・毎年のことながら、アンタちょっとミミ先生に近づきすぎじゃないか?」
「そうだ、そうだ」
パーティ会場の一角から、ミミ先生目当てでやってきた親父たちの怒号が飛んだ。
「なんじゃと?」
ジャムの目がキラリと光る。
!doctype>